近年、環境への意識が高まる中で、「グリーンツーリズム」という言葉をよく耳にするようになりました。グリーンツーリズムとは、都市部の人々が農山漁村地域を訪れ、その土地ならではの自然や文化、人々との交流を楽しむ、新しい旅のスタイルです。

この持続可能な観光形態は、単なる旅行の一形態にとどまらず、地域活性化や環境保全、そして都市と農村の交流促進など、多くの可能性を秘めています。都市生活に疲れた人々にとっては、豊かな自然の中でリフレッシュできる癒しの場となり、農村地域にとっては新たな経済的チャンスをもたらす win-win の関係を築くことができるのです。

さらに、グリーンツーリズムは、SDGs（持続可能な開発目標）の達成にも貢献します。地域の伝統文化や生態系の保護、地産地消の促進、そして環境教育の場としても機能し、持続可能な社会の実現に向けた重要な役割を果たしています。

本記事では、このグリーンツーリズムの魅力や現状、具体的な取り組み事例、そして未来の展望について詳しく見ていきます。自然との共生や地域社会との繋がりを大切にする新しい旅のかたちに、あなたも興味を持ってみませんか？

グリーンツーリズムの現状と展望

グリーンツーリズムは、都市と農村の交流を促進し、持続可能な観光を実現する新しい旅のスタイルとして注目を集めています。この考え方は1990年代にヨーロッパで生まれ、日本では1992年に農林水産省が「グリーン・ツーリズム研究会」を設置したことをきっかけに広まりました。

グリーンツーリズムとは？その特徴をご紹介

グリーンツーリズムは、農山漁村地域で自然や文化、人々との交流を楽しむ滞在型の余暇活動を指します。主な特徴は以下の通りです：

1. 地域の魅力を活かす：地域ならではの自然、文化、伝統を観光の魅力として活用します。
2. 体験を重視：農業体験や料理体験、工芸体験など、地域の生活や産業を直接体験できます。
3. 環境に優しい：自然環境への配慮や保全活動を通じて、長く続く観光を目指します。
4. 地域を元気に：観光客を受け入れることで、地域経済の活性化や仕事づくりにつながります。
5. 学びの機会：環境教育や食育など、新しい知識を得る機会を提供します。

市場の動きはどうなっている？

最近、グリーンツーリズムの市場は着実に成長しています。日本政府観光局（JNTO）の調査によると、外国人旅行者の約20%が農山漁村地域での体験に興味を持っています。国内旅行者も、自然体験や農業体験を求める傾向が強まっています。

また、新型コロナウイルスの影響で、人混みを避けた旅行スタイルが求められる中、グリーンツーリズムはより注目されています。農林水産省の報告によると、2020年以降、農泊（農村地域での滞在型旅行）の需要が増えており、特に若い世代に人気があります。

課題と取り組み

グリーンツーリズムが広まるにつれ、いくつかの課題も見えてきました：

1. 受け入れ態勢の充実：農家民宿や体験プログラムの質を高める必要があります。
2. 魅力の発信：地域の魅力を効果的に伝える工夫が求められます。
3. 人材の確保：グリーンツーリズムを運営できる人材を育てることが課題です。
4. 長く続けられる仕組み：観光と環境保護のバランスを保つことが大切です。

これらの課題に対して、各地域で様々な取り組みが行われています。例えば、農林水産省は「農泊推進対策」を実施し、受け入れ態勢の整備や人材育成を支援しています。また、地方自治体やNPO法人が中心となり、グリーンツーリズムの普及や情報発信を行っています。

さらに、SDGs（持続可能な開発目標）の観点からも、グリーンツーリズムの重要性が認識されており、環境に配慮した観光のあり方として注目されています。

グリーンツーリズムは、都市と農村の交流を深め、地域の活性化と環境保護を両立させる新しい観光の形として、今後さらなる発展が期待されています。次の章では、具体的なグリーンツーリズムの事例をご紹介し、実際の取り組みについて詳しく見ていきましょう。

グリーンツーリズムの事例・具体例等

グリーンツーリズムは、日本各地で様々な形で実践されています。ここでは、特徴的な取り組みを行っている3つの事例をご紹介いたします。これらの事例を通じて、グリーンツーリズムがどのように環境保護と地域活性化を両立させているかをご覧いただけます。

1. 長野県飯山市：雪国の魅力を活かした通年型グリーンツーリズム

長野県飯山市は、豊かな自然と雪国文化を活かしたグリーンツーリズムで有名です。

取り組みの特徴

• 四季を通じた体験プログラム: 冬のスキーや雪国体験、春の山菜採り、夏の農業体験、秋の紅葉狩りなど、年間を通じて楽しめるプログラムを提供しています。
• 農家民宿の充実: 地元の農家が運営する民宿が多数あり、農村生活を身近に体験できます。
• 地域資源の活用: 地元の食材を使った郷土料理体験や、伝統工芸品作りの教室など、地域の文化や産業を活かした体験を提供しています。

成果

• 観光客の滞在期間が延びました
• 農家の副収入が増えました
• 地域の伝統文化の保存と継承が進んでいます

飯山市の取り組みは、雪国の厳しい環境を逆手にとり、その独自性を観光資源として活用した好例といえます。都市部からの観光客に雪国の暮らしを体験してもらうことで、地域の魅力を再発見し、環境保全への意識も高まっています。

2. 大分県由布市：温泉と農村体験を組み合わせたグリーンツーリズム

大分県由布市は、有名な温泉地である湯布院と豊かな農村地域を併せ持つ地域です。

取り組みの特徴

• 温泉と農村体験の融合: 温泉観光と農村体験を組み合わせることで、滞在型の観光を促進しています。
• **地産地消の推

進**: 地元の農産物を使った料理教室や、農家レストランの運営を通じて、地産地消を進めています。

• 環境教育の実施: 田んぼの生き物観察会や森林セラピーなど、自然環境の大切さを学ぶプログラムを提供しています。

成果

• 観光客の多様化が進みました（温泉目的だけでなく、農村体験目的の観光客も増加）
• 農業の6次産業化が進んでいます
• 環境保全意識が高まっています

由布市の事例は、既存の観光資源（温泉）とグリーンツーリズムをうまく組み合わせることで、新たな観光の魅力を生み出した好例です。また、環境教育にも力を入れることで、持続可能な観光地づくりを目指しています。

3. 沖縄県石垣市：島の自然と文化を活かしたエコツーリズム

沖縄県石垣市は、美しい海と豊かな自然を活かしたグリーンツーリズムを展開しています。

取り組みの特徴

• マリンアクティビティとの連携: シュノーケリングやダイビングなどのマリンアクティビティと、農業体験や島の文化体験を組み合わせています。
• 環境保全活動の実施: サンゴ礁の保全活動や海岸清掃など、観光客も参加できる環境保全活動を行っています。
• 伝統文化の体験: 八重山の伝統音楽や踊り、染物などの文化体験プログラムを提供しています。

成果

• 観光客の環境意識が高まっています
• 地域の伝統文化の保存と継承が進んでいます
• 新たな雇用が生まれています（ガイドや体験プログラムの講師など）

石垣市の事例は、自然環境の保護と観光振興を両立させた好例です。観光客に環境保全活動に参加してもらうことで、島の自然の大切さを実感してもらい、持続可能な観光につなげています。

これらの事例から、グリーンツーリズムが地域の特性を活かしながら、環境保護と地域活性化を両立させる可能性を持っていることがわかります。次章では、このようなグリーンツーリズムの今後の展望について考えていきましょう。

グリーンツーリズムの今後の展望

グリーンツーリズムは、持続可能な観光の形態として、さらなる発展が期待されています。環境保護や地域活性化に貢献する一方で、新たな課題や可能性も見えてきています。ここでは、グリーンツーリズムの未来について、いくつかの観点から考察してまいります。

1. デジタル技術の活用

デジタル技術の進歩は、グリーンツーリズムにも大きな影響を与えています。

• オンライン予約システムの普及: 農家民宿や体験プログラムの予約が、スマートフォンで簡単にできるようになります。
• バーチャル体験の提供: VRやARを活用した農村体験の事前体験や、遠隔地からの参加が可能になります。
• SNSを活用した情報発信: インスタグラムやTikTokなどのSNSを通じて、農村の魅力を若い世代に効果的に伝えることができます。

これらの技術を活用することで、グリーンツーリズムの認知度向上や、新たな顧客

層の開拓が期待できるでしょう。

2. 環境保護と持続可能性の強化

SDGsの重要性が高まる中、グリーンツーリズムにおいても環境保護や持続可能性への取り組みがさらに強化されると予想されます。

• 再生可能エネルギーの導入: 太陽光発電や小水力発電など、地域の特性を活かした再生可能エネルギーの導入が進むことでしょう。
• 循環型農業の推進: 有機農業や無農薬栽培など、環境に配慮した農業手法の採用が増えると考えられます。
• 生物多様性の保全: 地域の生態系を守るための取り組みが、グリーンツーリズムのプログラムに組み込まれていくはずです。

これらの取り組みにより、グリーンツーリズムは単なる観光にとどまらず、環境教育の場としての役割も強化されていくと考えられます。

3. 多様な働き方との連携

テレワークやワーケーションの普及に伴い、グリーンツーリズムと新しい働き方の融合が進むと予想されます。

• 農村でのワーケーション: 都市部の企業が従業員の福利厚生として、農村でのワーケーションを推奨する動きが増えるでしょう。
• デュアルライフの促進: 都市と農村を行き来する生活スタイルが、グリーンツーリズムを通じて広まる可能性があります。
• 副業としての農業体験: 週末農業や短期農業体験など、副業としてグリーンツーリズムに関わる人が増えると考えられます。

これらの動きは、都市と農村の交流をさらに促進し、グリーンツーリズムの新たな形を生み出す可能性があるでしょう。

4. インバウンド需要への対応

コロナ禍の影響が落ち着いた後、インバウンド需要の回復とともに、外国人観光客向けのグリーンツーリズムの需要が高まると予想されます。

• 多言語対応の強化: 体験プログラムや案内板の多言語化が進むことでしょう。
• 文化交流プログラムの充実: 日本の農村文化を体験できるプログラムがさらに充実すると考えられます。
• ハラル対応やベジタリアン対応: 多様な食文化に対応した農家レストランや民宿が増えるはずです。

これらの取り組みにより、グリーンツーリズムは日本の魅力を世界に発信する重要な役割を果たすことができるでしょう。

5. 地域間連携の強化

個々の地域だけでなく、複数の地域が連携してグリーンツーリズムを推進する動きが活発化すると予想されます。

• 広域周遊ルートの開発: 複数の地域を巡る長期滞在型のグリーンツーリズムプランが増えることでしょう。
• 地域間の経験共有: 成功事例や課題解決のノウハウを地域間で共有する仕組みが整備されると考えられます。
• 共同マーケティング: 複数の地域が協力して、グリーンツーリズムの魅力を発信する取り組みが増えるはずです。

これらの連携により、グリーンツーリズムの質の向上と、より多様な体験の提供が可能になるでしょう。

以上のように、グリーンツーリズムは今後、技術革新や社会の変化に合わせて進化していくと考えられます。環境保護と地域活性化の両立を目指しながら、新たな価値を創造し続けることで、持続可能な観光の形態として、ますます重要性を増していくことでしょう。

次章では、これまでの内容を踏まえて、グリーンツーリズムの魅力と可能性について総括し、読者の皆さまへのメッセージをお伝えいたします。

まとめ：グリーンツーリズムが拓く持続可能な未来

本記事では、グリーンツーリズムの魅力や現状、具体的な取り組み事例、そして未来の展望について詳しく見てまいりました。グリーンツーリズムは、単なる観光の一形態にとどまらず、環境保護、地域活性化、文化継承など、多様な価値を生み出す可能性を秘めています。

グリーンツーリズムの重要性

1. 環境保護への貢献: 自然環境の大切さを体感し、環境保全意識を高める機会を提供します。
2. 地域経済の活性化: 農山漁村地域に新たな収入源をもたらし、地域の持続可能性を高めます。
3. 文化継承: 地域の伝統文化や生活様式を次世代に伝える役割を果たします。
4. 都市と農村の交流促進: 異なる生活環境の人々の相互理解を深め、社会の調和に貢献します。
5. 持続可能な観光の実現: 大量消費型の観光ではなく、環境に配慮した持続可能な観光のモデルを示します。

今後の動向への期待

グリーンツーリズムは、デジタル技術の活用や環境保護の強化、新しい働き方との融合など、様々な可能性を秘めています。これらの変化に柔軟に対応しながら、その本質的な価値を守り続けることが重要です。