グリーンツーリズムとは?魅力・事例・課題を徹底解説

グリーンツーリズムとは?農山漁村の活性化とその魅力を徹底解説! トレンド・用語紹介
グリーンツーリズムとは?農山漁村の活性化とその魅力を徹底解説!

都会の喧騒から離れ、緑豊かな自然の中で心安らぐ時間を過ごしたい。そんな願いを叶えてくれるのが「グリーンツーリズム」です。この記事では、グリーンツーリズムの基本的な定義から、その魅力、メリット・デメリット、さらには日本各地での成功事例や、高齢化・過疎化が進む地域での持続可能な運営の可能性まで、幅広く掘り下げていきます。グリーンツーリズムに興味をお持ちの旅行者の方、地域活性化に関心のある方、そして地方自治体の職員の方々にとって、有益な情報となることを目指します。

グリーンツーリズムとは? – 自然と文化、人との交流を楽しむ旅の形

グリーンツーリズムとは、具体的にどのようなものなのでしょうか。その定義や背景、目的について詳しく見ていきましょう。

農林水産省による定義と背景

農林水産省は、グリーンツーリズムを「緑豊かな農村地域において、その自然、文化、人々との交流を楽しむ滞在型の余暇活動」と定義しています。これは、都市部で生活する人々に、普段触れることの少ない農山漁村の豊かな自然や伝統文化、そしてそこに住む人々との温かい交流を通じて、心身のリフレッシュや新たな発見を得る機会を提供するものです。

この概念は、ヨーロッパで古くから親しまれている農村でのバカンス文化に影響を受けています。日本では、平成4年(1992年)にグリーンツーリズムが提唱され、平成6年(1994年)には「農山漁村滞在型余暇活動のための基盤整備の促進に関する法律(農山漁村余暇法)」が制定されるなど、国を挙げて推進されてきました。近年では、農家での宿泊体験を提供する「農泊」をさらに普及させるため、旅館業法や旅行業法といった関連法規の規制緩和も進められています。

グリーンツーリズムの目的

グリーンツーリズムが目指すものは多岐にわたりますが、主な目的として以下の3点が挙げられます。

  • 地域活性化:都市住民の誘客による交流人口の増加、新たな雇用の創出、地域経済の活性化。
  • 産業振興:農業・漁業といった第一次産業の体験や、地元の特産品販売などを通じた所得向上、新たなビジネスモデルの創出。
  • 環境保全:地域の自然環境や美しい景観の価値を再認識し、その保全活動へとつなげる。

これらの目的を達成することで、グリーンツーリズムは農山漁村が抱える過疎化や高齢化といった課題の解決に貢献し、持続可能な地域社会の実現を目指しています。

消費者のニーズと近年の動向

グリーンツーリズムへの関心は高まっています。平成21年に財団法人日本交通公社が行った調査によると、農山漁村を訪れる理由として「のんびりできそう」が最も多く、次いで「おいしい食材で有名な場所」「おいしい料理で有名な場所」が挙げられました。これは、多くの人々が農山漁村ならではのゆったりとした時間や、そこでしか味わえない食の魅力に惹かれていることを示しています。

農林水産省の調査(第3回エコツーリズム推進方策検討会資料より)でも、グリーンツーリズム施設への宿泊者数は年々増加傾向にあり、その需要の高さがうかがえます。さらに近年では、国内旅行者だけでなく、海外からのインバウンド観光客の誘致も活発化しています。農林水産省も外国人旅行者向けのプロモーション事業を積極的に展開しており、日本のグリーンツーリズムは国際的な市場へと発展しつつあります。このような背景から、自然体験農村体験田舎体験といったキーワードへの注目はますます高まっています。

グリーンツーリズムのメリット・デメリット

グリーンツーリズムは多くの魅力を持つ一方で、実施にあたって考慮すべき点も存在します。ここでは、そのメリットとデメリットを詳しく見ていきましょう。

メリット

  • 産業振興と地域経済への波及効果

    グリーンツーリズムは、農山漁村に新たな産業を創出し、地域経済に多大な貢献をします。具体的には、「飲食」「購買」「宿泊」「体験」「景観」という5つの機能が相互に連携し、経済効果を生み出します。

    • 飲食:地元の食材を活かした料理や郷土料理の提供は、農産物の付加価値を高め、地域の食文化を発信する機会となります。レストランやカフェの開業は新たな雇用も生み出します。
    • 購買:農産物直売所や土産物店での販売は、生産者の所得向上に直結します。また、加工品開発なども進み、地域ブランドの確立にも繋がります。
    • 宿泊:農家民宿(農泊)や古民家を改装した宿などは、都市住民に非日常的な滞在体験を提供し、宿泊料収入をもたらします。長期滞在が増えれば、さらなる消費拡大が期待できます。
    • 農家民宿

      出典:「青森県 | 全国の農山漁村の体験・宿泊がさがせる、農泊ポータルサイト⧉」|全国の農山漁村の体験・宿泊がさがせる、農泊ポータルサイト
      https://nohaku.net/area/aomori/

    • 体験:農業体験(田植え、稲刈り、野菜収穫など)、漁業体験、郷土料理作り、工芸体験といったプログラムは、参加費収入だけでなく、地域の文化や技術を伝える貴重な機会となります。
    • 景観:美しい田園風景や里山、海岸線といった景観そのものが観光資源となり、人々を惹きつけます。景観維持のための活動が地域住民の意識を高め、さらなる魅力向上に繋がります。

    これらの機能が充実し、連携することで、観光客は地域内を周遊し、多様な消費活動を行います。その結果、特定の事業者だけでなく、地域全体へと経済的な恩恵が波及していくのです。

  • 地域活性化

    グリーンツーリズムは、雇用の創出を通じて若者の地元定着を促し、地域住民の生活向上に貢献します。また、都市住民との交流は、地域に新たな刺激をもたらし、住民の活動意欲を高める効果も期待できます。伝統文化の継承や、地域イベントの活性化にも繋がるでしょう。まさに地域活性化の起爆剤となり得るのです。

  • 環境保全

    豊かな自然環境はグリーンツーリズムの根幹です。観光客がその価値を認識し、魅力を感じることで、地域住民の環境保全意識が高まります。また、収益の一部を環境整備に充てるなど、持続可能性を重視した観光モデルの構築が可能になります。エコツーリズムの考え方とも親和性が高いと言えます。

  • 社会的活性化

    受け入れ側の住民と観光客との間に生まれる温かい交流は、双方にとって大きな喜びとなります。観光客からの感謝の言葉や、地域の魅力に対する評価は、住民にとって地域への誇りや愛着を再認識する機会となり、自信の醸成に繋がります。

デメリット

  • 環境負荷の増大

    観光客の増加は、自然環境への負荷を高める可能性があります。ゴミの増加、騒音問題、自然破壊(踏み荒らしなど)といった問題が発生しやすくなります。特にデリケートな自然環境を有する地域では、受け入れ可能な観光客数(キャリングキャパシティ)を考慮した管理が不可欠です。

  • 資源の消費と受け入れ側の負担

    観光客を受け入れるためには、人的リソースが不可欠です。特に高齢化が進む地域では、担い手不足が深刻な課題となります。また、体験プログラムの準備、施設の維持管理、情報発信などには、時間と労力、そして資金が必要です。直売所や体験施設を新たに整備する場合には、まとまった初期投資や運営スペースの確保も考慮しなければなりません。

  • 経済格差の発生

    グリーンツーリズムによる収益が、一部の事業者や地域に偏ってしまう可能性があります。地域住民全体へ公平に利益が還元される仕組み作りや、協力体制の構築が重要です。そうしなければ、地域内での不公平感が生じ、取り組みへの協力が得られにくくなることもあります。

  • 文化への影響

    過度な観光地化は、地域の伝統文化や生活様式に影響を与える可能性があります。観光客向けのショー化が進んだり、静かな生活環境が損なわれたりする懸念があります。地域固有の文化を守りつつ、観光客に理解を深めてもらうバランスの取れた対応が求められます。

これらのメリットとデメリットを十分に理解し、対策を講じながら進めることが、グリーンツーリズム成功の鍵となります。

自治体の事例紹介 – グリーンツーリズム成功のヒント

日本各地で、地域資源を活かした特色あるグリーンツーリズムが展開されています。ここでは、具体的な自治体の取り組み事例を見ていきましょう。

【栃木県大田原市】官民連携による組織的な推進モデル

大田原市

出典:「「グリーンツーリズム」がインバウンド客と地域にもたらすものとは|地域の取り組み事例|JNTO(日本政府観光局)⧉」|日本政府観光局(JNTO) – Japan National Tourism Organization
https://www.jnto.go.jp/projects/regional-support/casestudy/3551.html

栃木県北東部に位置する大田原市は、那須野ヶ原の広大な平野を活かした農業が盛んな地域であり、首都圏への食糧供給基地としての役割も担っています。

那須野ヶ原

出典:「那須野が原公園周辺の観光スポットランキング – じゃらんnet⧉」|jalan.net
https://www.jalan.net/kankou/spt_09409ah3330042182/spot/

  • 特徴:大田原市のグリーンツーリズム事業の最大の特色は、官民が共同で設立した「株式会社大田原ツーリズム」が事業の中核を担っている点です。平成26年に市と18社の民間企業が共同出資して設立されたこの法人が、旅行の企画・手配、学校や企業からの団体客の受け入れ、そして事業全体のコーディネートを行っています。
  • 取り組み内容:広大な耕作地を活用し、数百人規模での田植え体験や稲刈り体験といった大規模な農業体験プログラムを提供しています。特に修学旅行をはじめとする教育旅行の受け入れに力を入れており、子どもたちに農業の魅力や食の大切さを伝えています。
  • 成功要因:
    • 明確な事業主体(株式会社大田原ツーリズム)による一元的な窓口機能と推進力。
    • 行政と民間企業が連携することで、それぞれの強みを活かした事業展開が可能。
    • 地域の特性(広大な農地、首都圏からのアクセスの良さ)を最大限に活用したプログラム開発。
  • 課題:継続的な人材育成や、多様化する旅行者のニーズへの対応、体験プログラムの質の維持・向上が今後の課題として考えられます。
  • アクセス例:JR東北新幹線「那須塩原駅」から車で約30分。大田原市の観光情報については、


    出典:「None⧉」|None!https://www.rome2rio.com/ja/s/那須塩原市/大田原市

    大田原市観光協会のウェブサイトなどで確認できます。

【青森県】農家民宿を核とした「食と農」の体験学習モデル

青森県

出典:「農泊(グリーン・ツーリズム)を体験してみませんか|青森県庁ウェブサイト Aomori Prefectural Government⧉」|青森県庁ホームページ
https://www.pref.aomori.lg.jp/soshiki/nourin/kozoseisaku/green-tourism.html

青森県では、県内各地でグリーンツーリズムが盛んに行われており、その数は170施設(青森県「グリーン・ツーリズムを体験してみませんか」より)にものぼります。特に「農家民宿」での滞在を通じた体験型プログラムが人気です。

  • 特徴:多くの施設が観光型の事業を展開する一方で、一部の団体では国内の学生やインバウンド観光客を対象とした教育旅行を積極的に受け入れています。「農家民宿」では、県内の農家に滞在し、農作業体験や地元の食材を使った料理作りなどを通じて、食と農を体験的に学ぶことができます。
  • 取り組み内容:リンゴ、米、野菜、花木といった青森県が誇る農産物の生産過程を深く知ることができます。農業体験プログラムや受け入れ農家との交流を通じて、参加者は「食」の大切さや「農」の営みを肌で感じることができます。
  • 成功要因:
    • 豊富な農産物と、それらを活かした多様な体験プログラムの提供。
    • 農家の方々との直接的な交流による、温かみのあるおもてなしと深い学び。
    • 「食育」としての価値が高く評価され、教育旅行先としての地位を確立。
    • 「青森ブランド」の農産物のPRやイメージ向上にも貢献。
  • 課題:個々の農家民宿の運営負担の軽減、情報発信力の強化、体験プログラムの標準化と質の担保などが挙げられます。
  • アクセス例:青森県内の農家民宿の情報は、青森県のグリーン・ツーリズム情報ページなどで検索可能です。

事例から学ぶ成功のポイントと比較

大田原市の事例は、行政と民間が一体となった組織的な推進体制が成功の鍵となっています。広域的な連携や大規模な誘客、安定した運営基盤がメリットです。一方、柔軟な対応や個々のニーズへのきめ細やかな対応が課題となる可能性もあります。

対して青森県の農家民宿モデルは、個々の農家の主体性と多様な体験が魅力です。小規模ながらも、温かいおもてなしや地域ならではの深い文化体験を提供できる点がメリットです。しかし、集客力や情報発信、品質管理の標準化が課題となることがあります。

これらの事例以外にも、日本各地でユニークなグリーンツーリズムが実践されています。例えば、古民家を活用した滞在施設、地域の伝統工芸体験、森林セラピーを取り入れたプログラムなど、その土地ならではの魅力を活かした多様な取り組みが見られます。重要なのは、地域の資源を深く理解し、それを活かした独自のプログラムを開発すること、そして地域住民が主体的に関わり、継続的な運営体制を築くことです。これらの成功ポイントは、他の地域がグリーンツーリズムを導入する際の貴重な示唆を与えてくれます。

高齢化や過疎化の進む地域における持続可能な運営

高齢化や過疎化は、日本の多くの農山漁村が直面する深刻な課題です。グリーンツーリズムは、これらの課題解決に向けた有効な手段となり得るのでしょうか。そして、持続可能な運営を実現するためには何が必要なのでしょうか。

地域への貢献

グリーンツーリズムは、高齢化や過疎化が進む地域に対して、以下のような多面的な貢献が期待できます。

  • 交流人口の増加と地域の活力維持:都市部からの訪問者が増えることで、地域に賑わいが生まれ、活力が維持されます。
  • 新たな雇用の創出と所得向上:観光関連の仕事が増えることで、若者の流出抑制やUターン・Iターン者の受け入れに繋がります。また、高齢者にとっても、経験や知識を活かせる就労機会が生まれます。
  • 伝統文化や技術の継承:地域の伝統文化や生活様式、農作業の技術などを体験プログラムとして提供することで、その価値が再認識され、次世代への継承が促されます。
  • 遊休資産の活用:空き家となった古民家を宿泊施設や体験施設として改修・活用することで、新たな価値を生み出すことができます。
  • 地域住民の生きがい創出:観光客との交流や、地域資源を活かした活動は、住民にとって新たな生きがいや役割意識をもたらします。

持続可能な運営のための課題と方策

しかし、これらの貢献を持続的なものにするためには、いくつかの課題を克服する必要があります。

  • 課題:
    • 環境保全と観光利用のバランス:豊かな自然環境はグリーンツーリズムの基盤ですが、過度な観光客の集中は環境破壊を招く恐れがあります。
    • 地域住民の負担軽減:特に高齢者が多い地域では、受け入れ準備や運営に関わる負担が大きくなりがちです。担い手不足も深刻です。
    • 利益の公平な分配:一部の事業者だけでなく、地域全体に利益が還元される仕組みがなければ、住民の協力は得られにくくなります。
    • 担い手育成と後継者問題:グリーンツーリズムを継続していくためには、若い世代への技術やノウハウの継承、新たな担い手の育成が不可欠です。
  • 方策:
    • 地域住民が主体となった計画策定:地域住民自身が、どのようなグリーンツーリズムを目指すのか、受け入れ体制はどうするのかなどを話し合い、合意形成を図ることが重要です。
    • 外部人材の活用:地域おこし協力隊や専門家、都市部のボランティアなど、外部の視点やスキルを取り入れることで、新たな展開が期待できます。
    • 情報発信の強化と連携:SNSやウェブサイトを活用した効果的な情報発信や、近隣地域との連携による広域的な魅力発信が求められます。
    • 小さな成功体験の共有とステップアップ:無理のない範囲から始め、成功体験を積み重ねていくことで、住民のモチベーションを高め、段階的に取り組みを拡大していくことが現実的です。
    • 多世代交流の促進:高齢者の知恵と若者の行動力を組み合わせることで、より魅力的なプログラム開発や運営が可能になります。

SDGsとの関連性と未来展望

グリーンツーリズムは、国連が掲げる「持続可能な開発目標(SDGs)」の多くの目標達成に貢献する可能性を秘めています。例えば、目標8「働きがいも経済成長も」、目標11「住み続けられるまちづくりを」、目標12「つくる責任つかう責任」、目標15「陸の豊かさも守ろう」といった目標と深く関連しています。地域の自然や文化を守りながら経済的な自立を目指すグリーンツーリズムは、まさに持続可能性を体現する取り組みと言えるでしょう。

今後のグリーンツーリズムは、単なる自然体験農村体験に留まらず、より深い学びや地域との繋がりを求める旅行者のニーズに応えていく必要があります。ワーケーションや教育旅行といった新たな滞在スタイルの取り込み、オンライン技術を活用した事前の情報提供や関係性の構築、そして何よりも地域住民が誇りを持ち、楽しみながら取り組める環境づくりが、その未来を明るく照らすでしょう。

まとめ – グリーンツーリズムで豊かな未来を

本記事では、グリーンツーリズムの定義から、その多岐にわたるメリット・デメリット、具体的な自治体の成功事例、そして高齢化や過疎化が進む地域での持続可能な運営のあり方について詳しく解説してきました。

グリーンツーリズムは、都市住民にとっては心身をリフレッシュし、新たな発見と学びを得られる貴重な機会を提供します。そして、農山漁村にとっては、地域活性化、産業振興、文化継承、環境保全といった多くの恩恵をもたらす可能性を秘めた、まさに田舎体験の宝庫です。それは、単なる観光にとどまらず、都市と農村が互いに支え合い、共に豊かになるための架け橋となり得るのです。

この記事を読まれた皆さんが、グリーンツーリズムの魅力と可能性を再認識し、実際に訪れてみたい、あるいは自身の地域で取り組んでみたいと感じていただけたなら幸いです。ぜひ、日本の美しい農山漁村へ足を運び、その土地ならではの自然体験や文化、温かい人々と触れ合ってみてください。そして、グリーンツーリズムを通じた地域の取り組みへのご理解とご支援をいただければと思います。一人ひとりの小さな関心が、日本の農山漁村の明るい未来、そして持続可能性に繋がっていくはずです。

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